「請求代行で◯%削減できます」と言われたとき、その◯%が請求総額に掛かるとは限りません。掛かるのは割引対象額という分母だけで、そこから何が外れるかは請求書の構造次第です。この話は前々回に書きました。
ただ、あの記事で使ったのは説明用の架空の数値でした。「では実際のところ、その分母は総額の何割くらいなのか」は答えていません。今回はそこを、実際に分析した請求書から集計します。
結論から書きます。9件の中央値は61.6%、レンジは46.2〜100%。分母が請求総額と一致したのは9件中2件だけでした。
何をどう数えたか
集計したのは、私たちが2026年に請求内訳まで受領して分析した案件のうち、割引対象額を算定できた9件です(8社/AWS 6件・Google Cloud 3件。1社はAWSとGoogle Cloudの両方を分析しているため、社数より件数が1多くなっています)。
分母と分子はこう置いています。
分母 = 割引前の請求総額
AWSは請求書の Charges、Google Cloudは費用ベースの総額
分子 = 割引対象額 = 分母 − 割引対象外
「割引対象外」に何を積むかは、前々回の記事で書いた外し方に揃えました。Savings Plans(SP)は適用額とコミット費用の2本、Reserved Instances(RI)はカバー分($0で計上されるため自動的に対象外)、Private Rate Card(PRC)は対象サービスのCharges全額、そこにAWS Support・Marketplace・税を加えます。Google Cloud側はCommitted Use Discount(CUD)でカバーされた分と、割引率が0%になるVertex AIなどのAI関連、Marketplaceを外しています。
この記事で出すのは分母の比率だけです。 各社に提示した割引率も、そこから出る削減額も出しません。比率は「その会社の請求書がどういう構造をしているか」であって、どのリセラーが分析しても同じ数字になります。一方、率のほうは当社の条件そのものなので、記事の題材にはしません。ご自身の見積書に書かれた率に、この記事の方法で出した比率を掛けてください。それが実効値です。
社名・月額・業種は伏せ、A〜Iのラベルにしています。
結果
| 案件 | クラウド | 対象額 ÷ 請求総額 | 分母を削った主因 | データの確度 |
|---|---|---|---|---|
| H | Google Cloud | 46.2% | CUD、AI関連 | 推計(幅は30.0〜50.5%) |
| A | AWS | 49.3% | PRC、SP | 確定請求書 |
| G | Google Cloud | 54.8% | CUD | 確定コストテーブル |
| F | AWS | 59.1% | SP、Support、コミット型バンドル | 確定請求書 |
| I | Google Cloud | 61.6% | AI関連(Vertex AI) | 確定請求レポート |
| D | AWS | 66.7% | SP、Support | 確定請求書 |
| E | AWS | 72.9% | SP | 確定請求書(幅は50.3〜72.9%) |
| B | AWS | 100.0% | (除外なし) | 月中実績の月次換算 |
| C | AWS | 100.0% | (除外なし) | コスト&使用状況レポート |
- 中央値 61.6%
- レンジ 46.2〜100%
- 9件中7件が100%未満
つまり多くの場合、提示された率をそのまま請求総額に掛けると削減額を過大に見積もることになります。中央値のケースで言えば、総額に対する実効値は提示率の約6割です。
分かれ目は「コミット型を持っているか」だった
9件を、SP・RI・CUDのようなコミット型の割引を持っているかどうかで割ると、分布がきれいに割れます。
| グループ | 件数 | 対象額比率 |
|---|---|---|
| コミット型を1つも持たない | 2件 | いずれも 100% |
| コミット型を1つ以上持つ | 6件 | 中央値 57.0%(46.2〜72.9%) |
| 予約は無いがAI利用が大きい | 1件 | 61.6% |
コミット型を持たない2件は、請求書に割引行が1行もありませんでした。この構成では請求総額がそのまま分母になります。前々回書いたとおり、予約という仕組みが存在しないデータ転送・S3・VPC・ELBなどの比率が高い会社は、RI/SPを組み直す打ち手で届く上限が低い代わりに、利用の中身を問わないフラットな割引がそのまま効きます。この2件はその典型でした。
逆に、コミット型を1つでも持つと分母は46.2〜72.9%まで落ちます。すでに割引を効かせている部分には、リセラー割引を重ね掛けできないからです。これは「よく最適化されている会社ほど、追加で削れる余地は小さい」という、当たり前ですが提案の場では言いにくい事実でもあります。
予約が無くても分母は痩せる
面白かったのは案件Iです。この会社はコミット型を1つも持っていません。それでも対象額比率は61.6%でした。
削っていたのはAI関連です。Vertex AIが請求総額の**38.4%**を占めており、ここには割引率が乗りません。理由はGoogle Cloudのリセラー割引の記事に書いたとおりで、Google Cloudの割引はサービス・SKU単位で率が決まり、AI関連はその率が0%になるためです。
案件Hはもっと極端で、AI関連が請求の29.8%、さらにCUDが効いている領域が加わって46.2%まで落ちています。9件で最も低い値です。
**AI利用が増えるほど分母は痩せます。**しかもこの方向は不可逆に近く、時間が経つほどリセラー割引で削れる余地は小さくなっていきます。AI関連の比率が上がっている会社ほど、請求代行の検討は早いほうが有利です。
分母は月ごとに動く
案件Iには続きがあります。同じ会社の前月を同じ方法で計算すると、対象額比率は**78.1%**でした。翌月は61.6%です。1か月で16.5ポイント動いています。
動いた理由もAI関連で、Vertex AIの比率が21.9%から38.4%に上がったためです。インフラ側の構成は何も変えていません。
ここから言えるのは、1か月分の請求書で出した比率を固定値として扱わないほうがいいということです。見積を受け取るときも、出すときも、最低3か月分を並べたほうが安全です。私たちも1か月分しか受領できていない案件では、その旨を見積に明記しています。
9件中2件は、請求書だけでは分母が確定しなかった
表の「データの確度」列に幅を書いた2件(EとH)は、請求書を読んでも対象額を1つの数字に確定できませんでした。
- 案件E:RDSとElastiCacheの請求にRIの月額料金とオンデマンド利用が混ざっており、請求書側では分離できません(該当額は請求総額の22.6%)。RIはカバー分が$0で計上されるので、「本来いくらだったか」の情報が請求書に残らないためです。結果、対象額比率は50.3〜72.9%の幅になりました。
- 案件H:毎月一定額のコスト削減プログラムが効いていましたが、その内訳(CUDか、無料枠か)がデータから判別できず、30.0〜50.5%の幅になりました。
どちらも、確定させるにはコンソール側の情報が要ります。案件EならRI画面かCost Explorerの料金タイプ別内訳、案件HならSKU単位の明細です。
見積を受け取る側の実務としては、ここが分かれ目になります。もし「請求書を見せてください」だけで確定値の削減額が返ってきたなら、この分離をどう処理したのかを聞く価値があります。幅で返ってくるほうが、むしろ請求書を正しく読んでいるサインです。
何が分母を削ったのか
9件で、単独の除外項目として大きかったものを並べます(各案件の請求総額に対するポイント)。
| 除外項目 | 最大だった案件での寄与 |
|---|---|
| CUDでカバーされた分 | 41.8pt |
| AI関連(Vertex AI等) | 38.4pt |
| SP適用額 | 32.1pt |
| Private Rate Card 対象サービス | 22.4pt |
| SPコミット費用 | 14.4pt |
| コミット型のバンドル製品 | 3.5pt |
| AWS Support | 4.1pt |
見落とされやすいのは下の3つです。
SPコミット費用は、マイナス行ではなくプラス行として請求書に立ちます。マイナス行だけを外して計算すると、SPのコミット費用が割引対象に残ったままになり、削減額が過大に出ます。最大の案件で14.4ポイントぶん効いていました。この論点はSPとRIを請求書から見分ける記事に詳しく書いています。
Private Rate Cardは、外れるのがマイナス行の金額ではなく対象サービスのCharges全額です。案件Aでは、CloudFrontに個別レートが効いていたため、マイナス行そのものは総額の5.7%だったのに、外すべき額は22.4ポイントありました。差額だけを外す処理をすると、外すべき額の4分の1しか外せません。
AWS SupportとMarketplaceは、金額こそ数ポイントですが、忘れられやすい項目です。利用料そのものではないため、一般には対象外とされます。
自分の請求書で出す手順
やることは5つです。AWSの場合で書きます。
- 請求書の
Charges(割引前の合計)を控える — これが分母 Savings Plan (Charges covered by Savings Plans)のマイナス行と、Savings Plans for AWS Compute usageのプラス行を両方控えるDiscount (Private Rate Card)があれば、そのサービスのCharges全額を控える- AWS Support・Marketplaceの行を控える
- 分母から2〜4を引く。それが割引対象額
RIを持っている場合は、ここで止まります。請求書からは確定しないので、コンソールのRI画面かCost Explorerで料金タイプ別(RIFee / Usage / DiscountedUsage)の内訳を出してください。
この手順をブラウザ上で計算できるように、請求書セルフチェックを無料で公開しています(登録不要。記入用のExcel版・PDF版も同じページで配布しています)。上の9件の比率も参考データとして載せました。
Google Cloudの場合は、CUDでカバーされた分とAI関連を外します。ただしGoogle Cloudの割引はサービス単位で率が違うため、「対象/対象外」の二分法自体が近似です。厳密には加重平均で計算することになります。この記事の3件も、率が0%になるものを対象外として数えた近似値です。
この集計の限界
正直に書いておきます。
- n=9は少ないです。中央値61.6%を「業界の平均像」として扱わないでください。手元の9件がそうだった、以上のことは言えません
- 母集団に偏りがあります。請求内訳まで開示いただけた案件=コスト削減の検討が具体的に進んでいる会社なので、すでにSP/RI/CUDを入れている比率は世の中の平均より高い可能性があります。つまりこの9件の比率は、実態より低め(=分母が痩せ気味)に出ている可能性があります
- 9件中2件は幅でしか出ず、1件は月次換算の見込値です。表の確度列のとおりです
- 月次で動きます。上に書いたとおり、同一顧客で16.5ポイント動いた例があります
それでも1つだけ、n=9でも十分言えることがあります。**分母が請求総額と一致したのは2件だけで、その2件はコミット型の割引を1つも持っていませんでした。**残り7件では、率だけを比べる限り判断を誤ります。
まとめ
- 実案件9件(AWS 6・Google Cloud 3)で、割引対象額 ÷ 請求総額の中央値は61.6%、レンジは46.2〜100%
- 100%だったのは2件だけ。いずれもSP・RI・CUDを1つも持たない構成
- コミット型を1つでも持つ6件は46.2〜72.9%(中央値57.0%)
- 予約が無くてもAI関連が大きいと分母は痩せる。1件は総額の38.4%がVertex AIで61.6%まで低下
- 同一顧客でも月次で16.5ポイント動いた。1か月分で固定値として扱わない
- 9件中2件は請求書だけでは分母が確定しなかった(RIの内訳/CUDの内訳)。幅で返ってくる見積のほうが、請求書を正しく読んでいる
見積の「◯%」を見たら、まず聞くべきは1つです。その率は総額基準ですか、対象額基準ですか。 対象額基準なら、当社の対象額はいくらで、根拠となる請求書の行はどれですか。
CloudCutの分母
私たちが提供しているのはAWS / Google Cloudの請求代行を通じた最大20%の削減1ですが、この率が掛かるのは請求総額ではなく、この記事で計算した割引対象額です。
ですので、お出しする見積には対象額とその計算根拠になった請求書の行を必ず載せています。RIの内訳が請求書から分離できない案件では、確定値ではなく幅でお出ししたうえで、確定に必要な情報(RI画面のスクリーンショットやCost Explorerの料金タイプ別内訳)をお伝えしています。この記事の案件EとHが、まさにその形でご提示しているケースです。
「今の請求書だと分母はどれくらいになるのか」を知りたいだけ、というご相談も承っています。割引対象額の算出まででしたら、お切り替えのご検討とは切り離してお出しできます。
