前回・前々回は、AWSの請求書から割引の正味効果を読み解く方法と、リセラー割引が掛かる分母(割引対象額)を書きました。

そのあと何度か聞かれたのが「同じ計算はGoogle Cloudでも使えますか」でした。答えは半分だけ使えますです。「率ではなく分母を見る」という考え方は共通ですが、Google Cloudでは分母だけでなく率そのものも一定になりません。AWSの感覚のまま「Google Cloudでも◯%ですよね」と確認すると、答えが返ってこないか、返ってきても意味の違う数字が返ってきます。

この記事では、その構造の違いと、見積を受け取った側が何を聞けばいいかを整理します。

AWSの計算式は「率が定数」であることに乗っている

前回の記事で書いた計算式はこうでした。

割引対象額 = Charges − 割引対象外USD
実効削減率 = 割引率 × (割引対象額 ÷ 請求総額)

この式が成立しているのは、割引率が請求書のどの行に対しても同じだからです。だからこそ「率」と「分母」を分けて考えることができ、分母さえ確定すれば実効値が出ます。AWSのリセラー割引はフラットな率で、争点は「どの行が分母から外れるか」の一点に集約されていました。

Google Cloudはこの前提が崩れます。

Google Cloudは、サービス・SKU単位で適用率が変わる

提供元への照会で確認した範囲では、Google Cloudのリセラー割引は一律の率ではなく、各サービスがコミット割引の対象かどうか、およびSKU単位の利用量に依存して決まります

つまり請求書のイメージはこうなります。

AWSGoogle Cloud
割引率全行に同じ率行ごとに違う
争点分母から何が外れるか分母から何が外れるか + 残った行それぞれに何%乗るか
実効値の出し方率 × (分母 ÷ 総額)サービス別の加重平均

「割引対象/対象外」の2値ではなく、0%から始まる連続値だと思ったほうが実態に近いです。ある行は二桁、ある行は一桁、ある行は0%、という並びになります。

この違いは見積の読み方に直接効きます。 AWSなら「率はこれです」「分母はこれです」の2つが揃えば検算できますが、Google Cloudで単一の率だけを提示されても、それが全サービスの加重平均なのか、いちばん率の高いサービスの値なのかが判別できません。同じ数字を提示されても、自社の構成次第で実効値が半分以下になることがあります。

割引が乗らない代表格がAIワークロード

具体的に効いてくるのがここです。以前の記事でも触れましたが、Vertex AI にはリセラー割引が乗りません。一方でBigQueryやCompute Engineには乗ります。

これは今のクラウド費用の伸び方と噛み合いが悪い組み合わせです。生成AIの利用が増えるほど請求に占めるVertex AIの比率が上がり、同じ割引率のまま、実効値だけが下がっていきます。率の交渉を一切していなくても、構成が変わるだけで手取りが減る、ということが起こります。

さらに未確定の領域があります。Vertex AIのModel Garden経由で使うサードパーティのモデル(Anthropic・Metaなどのモデル)が割引の対象にどう入るかは、提供元からの回答が得られていません。ここは推測で埋めず、未確認として扱ってください。見積の場でも確認事項として置くのが正確です。

AI関連費用のうち、どこがクラウド請求に乗ってどこが乗らないかはAIのAPI化でクラウド費用が「見えなくなる」構造に整理しています。OpenAIやAnthropicとの直接契約分はそもそもクラウド請求に乗らないため、リセラー割引の話以前に対象外です。

CUDとSUDは分母のどこに効くか

AWSのSavings Plans / Reserved Instancesに相当するのが、Google CloudのCommitted Use Discount(CUD)です。考え方は前回と同じで、すでにコミット割引で安くなっている分に、リセラー割引を二重には乗せられません。コミット比率が高い構成ほど、リセラー割引が効く余地は小さくなります。

ただしGoogle Cloud固有の注意が2つあります。

1つめ: SUDはCompute Engineだけの仕組みです。 Sustained Use Discount(継続利用割引)は自動適用されるため「何もしなくても割引が乗っている」感覚になりがちですが、これはCompute Engineの話です。たとえばCloud RunにSUDはありません。一方でspend-based flexible CUDはCloud Runを対象に含みます。「うちは自動割引が効いているはず」という前提でサービス構成が変わっていると、実際には割引の乗っていない支出が積み上がります。

2つめ: CUDの残存期間が、動く時期を決めます。 これはAWSの回で書いた満了日の話と同じで、原則は満了に合わせて動かすことです。前払い済み・コミット済みの分を捨てて乗り換えても、それを取り返せる差が出ることはあまりありません。割引率の交渉より先に、コミットの種類と満了日の一覧を作るほうが話が早く進みます。

なお、リセラーへの移行にあたって既存のプロジェクトをそのまま引き継げるかどうかは、リセラー側の受け入れ条件によって変わります。AWSとGoogle Cloudで前提が違いますし、Google Cloud同士でも事業者によって違います。ここは一般論として断定できないので、後述の質問に含めています。保有中のコミット割引が移行後にどう扱われるかも、同じ場で確認すべき項目です。

架空例で実効値を出す

構造が分かれば計算自体は素直です。以下の金額も割引率もすべて架空で、実在の見積を示すものではありません。率が行ごとに違うとどうなるかを見るためのものです。

月額1,000万円のGoogle Cloud請求が、次の構成だったとします。

サービス月額仮の適用率割引額
Compute Engine350万円15%52.5万円
BigQuery180万円15%27.0万円
Cloud SQL120万円12%14.4万円
Cloud Storage・ネットワーク100万円10%10.0万円
Vertex AI200万円0%0円
Marketplace(サードパーティ)50万円0%0円
合計1,000万円103.9万円

実効値は 103.9 ÷ 1,000 = 10.39% です。この構成で「最も高い行の率」を答えると15%になりますが、実際に請求が減るのは10.39%分です。差の4.61ポイントは、率の交渉ではなく構成から出ています。

ここでVertex AIだけが月200万円から400万円に増え、他が変わらなかったとします。総額は1,200万円になりますが、割引額は103.9万円のまま増えません。実効値は 103.9 ÷ 1,200 = 8.66% へ下がります。率は1ポイントも動いていないのに、実効値が1.7ポイント以上落ちます。 AI利用が伸びている会社ほど、この向きの力が常に掛かっています。

逆に言えば、コミット割引が薄く、AI比率も低く、Compute Engine中心の構成であれば、Google Cloudのリセラー割引は素直に効きます。自社がどちら側かは、サービス別の月額を並べれば見当がつきます。

見積を受け取ったら聞くべきこと(Google Cloud版)

前回、AWS向けに4つの質問を挙げました。Google Cloudでは率が定数でない分、質問を1つ足す必要があります

  1. その率はサービス別ですか、加重平均ですか — 単一の数字だけ提示された場合、これを聞かないと検算できません
  2. サービス別の適用率の一覧をもらえますか — 少なくとも自社の上位サービスについて
  3. Vertex AIとMarketplace経由の利用はどう扱われますか — Model Garden経由のサードパーティモデルを含めて
  4. 保有中のCUDは移行後どうなりますか — 引き継がれるのか、満了まで待つ必要があるのか
  5. その前提で、当社の実効値はいくつになりますか — 直近の請求書のサービス別内訳に当てた計算で

AWSのときと同じで、5つめまで答えが返ってくるかどうかが実質的な判断材料になります。1と2に答えられない相手は、そもそもGoogle Cloudの割引構造の話をしていない可能性があります。

まとめ

  • 「率ではなく分母を見る」はAWSと共通。ただしGoogle Cloudは率そのものが一定でない
  • 割引率はサービス・SKU単位で変わるため、実効値は加重平均でしか出ない
  • Vertex AIには割引が乗らない。 AI比率が上がるほど、率が変わらなくても実効値は下がる
  • Model Garden経由のサードパーティモデルの扱いは未確定。断定せず確認事項にする
  • SUDはCompute Engine限定。Cloud Runには無い。「自動で効いているはず」は構成変更で崩れる
  • 見積を受け取ったら、単一の率ではなくサービス別の一覧を求める

CloudCutの答え

前回と同じく、上の5つに自社で答えておきます。

CloudCutはAWSとGoogle Cloudの請求代行を通じた最大20%の削減1を提供していますが、Google Cloudについては「一律◯%」という出し方をしていません。できないからです。お出しするのは直近の請求書のサービス別内訳に適用率を当てた計算と、そこから出た実効値です。Vertex AIが0%であることも、Model Garden経由のサードパーティモデルが未確認であることも、見積の中に明記しています。

この記事で書きたかったのは、単一の率だけで比較すると、Google Cloudでは構成の違いが丸ごと見えなくなるということです。ご自身の請求書のサービス別内訳を並べるところからのご相談も承っています。